ケインズ先生の大失敗

 


1.ケインズの功罪

 不景気になれば減税や公共事業をやり、金融緩和によって民間の投資活動を刺激する。ケインズの有効需要管理政策により、第二次世界大戦後、世界から恐慌が消えた。その意味ではケインズ政策は大成功を収めたといってよい。
 しかし、どんな良薬にも副作用があるように、ケインズ政策にもいくつかの副作用があった。

 第一に、ケインズ政策にはインフレーションという副作用があった。
一般に、好景気の時は需要圧力が大きく、物価は上昇傾向を持つ。一方、不景気のときにはデフレギャップが発生し物価は下落傾向を持つ。しかし、もし、不景気のときに経済に有効需要を注入す れば、下がるべき物価が下がらなくなる。つまり、不況期の有効需要創出政策は経済をインフレ体質にしてしまうのだ。

 一般に、インフレと失業はトレードオフ関係にあるといわれる。つまり、インフレという病気と失業という病気の両方ともを一度に は治療できない関係にある。もし、インフレと失業のどちらか一方しか選べないとしたら、人々はどちらを選択するだろうか。
 もちろん人々はインフレを選択する。経験してみれば分かるが、人生にとって失業ほど残酷なものはない。だから、人々は多少のインフレは我慢してでも、何とか不景気にだけはならないで欲しいと願う。資本主義にとってインフレは失業を回避するための必要悪である。かくして、ケインズ政策を採る資本主義国は例外なくインフレ体質に陥るのである。

 

 

2.ケインズ先生、見落とす

 ケインズ政策の第二の副作用は財政赤字という問題である。不況期に国債を発行し、借金をして公共事業をする。借金は返さなければならない。いつ返すか?当然、景気がよくなったときである。 
 しかし、景気がよくなって本当に不景気の時にした借金が返せるのか?

 答えはノーである。好景気による自然増収だけでは足りない。返済のためには増税が必要だ。しかし、国民は減税には賛成しても増税には反対する。増税を公約に掲げる立候補者は選挙で勝てないのだ。
 かくして、不景気のときに借金を重ね、景気がよくなっても返さない。その繰り返しが40年以上も続けられてきたのである。特にバブルが崩壊した1991年以降、借金総額は雪だるま式にふくらんでいった。

 では、当のケインズ自身はどう考えていたのか。
もちろんケインズは馬鹿ではない。借金は返さなければならないことくらい当然分かっていた。ではいつ返すのか?答えは「景気がよくなったとき」以外にはない。

 ケインズは人間を理性的な存在だと考えていた。だから、景気がよくなったら選挙民は理性を働かせて、増税に賛成してくれるはずだと考えていた(と私は理解している)。ところが、そうはならなかった。

 大衆が政治をリードする民主主義社会において、大衆は遠い将来のことより、目先の利益のことしか考えない。かくして、ケインズ政策が民主主義という制度と結びついた瞬間にうまく機能しなくなってしまった

 マルクスが「人間とは自分の利益にならなくても一生懸命働く存在」だと誤解したのと同じように、ケインズもまた人間を理性的な存在として買いかぶりすぎたといえる。

 

 

3.どうする、借金の山

 不況期のときに借金をするだけして、あとは返さなくてもいいとすればどうなるか。ケインズの不況対策は、ある種の麻薬のようなものであった。一度覚えたら容易に抜け出せなくな ってしまう。その結果、累積公債残高は国だけで637兆円(2010年度末)に達している。

 1万円札を束ねれば、100万円で1センチの厚さになる。1000万円で10センチ、1億円で1メートルである。637兆円では6370キロメートルになる。日本列島の長さは、北海道から沖縄まで約3000キロメートルであるから、現在の借金は、実に日本列島を往復できる距離に匹敵するのだ。しかもこれは国の借金だけである。地方もあわせれば約800兆円になる。

 どうしてここまでひどくなってしまったのか。ほかの先進資本主義国も財政赤字だが、日本ほどひどくない。なぜ なのか。日本人の政治意識に特別の問題があるのかもしれない。サンタクロースのプレゼントだって、誰かがそのコストを負担している。

 

 

借金はいずれは返さなければならない。では、どうやって返すのか。方法は次の3通りしかない。

@景気回復による自然増収

A増税をする。

Bインフレにする。

 

 もはや@だけによって返せる金額でないことは明白である。Aも必要であろう。消費税を40%くらいに引き上げれば不可能ではないかもしれない。しかし、今の民主主義のもとでは国民はそうした政策を 支持するとは思えない。ではどうするか。

 最後に残された方法は、Bのインフレしかない。
何かのきっかけで「ゴメン、政策を間違えちゃった」とか何とか言って、物価を100倍くらいにすれば借金のヤマなどあっという間に消滅する。実際、第二次世界大戦後、数年間で物価が240倍になったことがある。多くの政治家は最後はインフレという非常手段があると思っているのではないか。

 インフレによって借金が帳消しなるというが、それで損をするのは国債を買っている人である。実は、今国債を一番たくさん保有しているのは銀行である。だから銀行が一番損をする。銀行が損をするということは、国民の預けたお金が目減りをするということである。結局、

増税にしろインフレにしろ、国の借金のツケは、最後は国民が払わされることになる。


 

(参考) 私の書いた次の寓話もお読みいただけるとうれしいです。

寓話 フーヤン国倒産  

 

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